スズキが「e ビターラ」と名付けた電気自動車を発売する。全長4.3mに満たないコンパクトサイズで、スズキ的というか、ユニークなクロスオーバー型デザインが目を惹(ひ)くクルマだ。
正式発売はすこし先 プロトタイプで加速や操縦性を体験
2025年6月に、正式発売を前にして、プロトタイプと銘打ったモデルをドライブする機会をもらった。この先、同じ車体を使ったトヨタ版も発売されるというだけあって、かなり気になるモデルなのだ。

私が乗ったのは、ショートサーキットでだった。まだ登録されていないプロトタイプなので、一般道を走ることは出来ない。それでも、加速とか操縦性とかを体験してほしい、というスズキの開発者の意図は汲(く)めたように思う。
ひとことでいうと、よく走る。私が乗ったのは、前輪駆動車(FWD)と全輪駆動車(AWD)だ。e ビターラの駆動用バッテリーは、49kWhと61kWhの2種類。FWDは49kWhの106kW仕様と、61kWhの128kWという二つの仕様が用意される。AWDは61kWhのバッテリー搭載で、48kWの出力をもつ後輪駆動システムが加わる。

駆動システムは、トヨタやレクサスも使う、モーター、インバーター、トランスアクスル一体型の電動駆動モジュール「eAxle(イーアクスル)」。AWDは前後に1基ずつ搭載する。
レクサスの新型「RZ」の後輪用eAxleは167kWの出力を発揮。それに対して、「スポーティーというより運転しやすさを第一に開発しました」(開発者)というスズキのe ビターラでは、先に書いたとおり48kWとだいぶ控えめだ。
もちろん、RZとは所属するカテゴリーも価格帯も異なるだろうから、コストの面も考えて同等の性能というわけにはいかないだろう。それでも運転したかぎりは、じゅうぶんにパワーが感じられる走りが体験できた。

アクセルペダルを軽く踏み込んだだけで、力強く加速する。ただし昔の電気自動車のような強烈なものでなく、あくまで気持ちのよい加速だ。ステアリングホイールを操舵(そうだ)したときの車体の反応も、やたら速くはない。ただししっかりしている。いいバランスだと思った。
市場性の高いパッケージ ユーザー本位の“本格的ヨンク”
e ビターラとボディーサイズが同等かそれ以下のEVを探すと、「ミニクーパーE」(495万円?)、「プジョーE-208」(512万4000円?)、「フィアット500e」(577万円)、「ヒョンデ?インスター」(284万9000円?)、「BYDドルフィン」(299万2000円?)などがぱっと浮かぶ。日産も、全長4.3mていどという新型「リーフ」を25年6月に発表している。

全長4m前後は、都市内で扱いやすい。エンジンのないEVでは室内スペースをより大きくとりやすいため(全高は上がってしまう傾向だけれど)、コンパクトサイズでも、おとな4人が乗っていられるパッケージというのも、市場性が高い。
ボディーサイズや価格もあって、バッテリー容量には制限が生まれがち。それをデメリットとみるひとはいるだろうけれど、一充電走行距離が500km前後であれば、街中と近郊と、乗る範囲が限られているひとにとっては問題にならないかもしれない。

話をe ビターラに戻すと、新世代のグローバル商品として、ユーザー本位の凝った機構が採用されている。バッテリーへの急速充電時間を短くするため、寒冷時はバッテリー昇温機能が働くし、走行前に電池を温めるバッテリーウォーマー機能も装備される。スマートデバイスでの設定も可能という。
スズキによると、外気温0度の状態で、ドライブモードをエコモードにして走ったばあい、航続距離の悪化は「約10%のみ」(開発担当者)という。
見た目は、黒い剛性樹脂製のクラディングが車体の下をぐるりと囲う本格的ヨンクといった印象だ。AWDは登坂性能が26.8度と実用上は役に立ちそうな性能を有している。それに、前後のeAxleでは、片輪がスリップしても、ブレーキを有効に使うことで、接地輪への駆動力が失われないようにしている。

私は、サーキットで、AWDと同じく128kWのeAxleで前輪(のみ)を駆動するFWDにも乗った。EVのばあい、四輪の駆動力が効率よく制御できるため、AWDのメリットが喧伝(けんでん)されている。ただし車重で100kg軽いので、FWDは、それがメリットとなって期待以上に軽快な走りが楽しめた。
発売は「2025年度中」とスズキ。このままいっきにバッテリー駆動EVへと移行するわけではないというが、なにはともあれ、クルマ好きの選択肢としても注目したい仕上がりだった。?
【スペックス】
Suzuki e Vitara 4WD (Prototype)
全長×全幅×全高:4275×1800×1640mm
ホイールベース:2700mm
車重:1890kg
電気モーター 前後各1基 全輪駆動
バッテリー容量:61kWh
システム最高出力:135kW
システム最大トルク:307Nm
一充電走行距離:450km以上
乗車定員:5名
価格:未定
問い合わせ?写真:スズキ